99冊目『つられたらたべちゃうぞおばけ』
「あのね、ほんとに たべるわけじゃないよ。みんなと つられたらたべちゃうぞあそびをしたいんだよ」
無垢なこどもたちにつられたらたべちゃうぞおばけの魔の手が迫る!なんてことはない、のほほん愉快なおはなし。つられたらたべちゃう。
出てきた瞬間のつられたらたべちゃうぞおばけは大きい。
「おおきな くちに ぎろりと ひかる め。」
みんなは怖くて逃げ回る。そりゃそうだ、名は体をあらわすのだとして、“たべちゃうぞ”といっているおばけに近づいても何もいいことはない。食人族の村に誰も好んでいかないようなもの。
しかしこのおばけ様子がおかしい。確かに、
「おばけは おおきく おおきく くちをあけて おおきな おおきな あくび」
をして、それにつられた男の子をばくーんとひとのみにしてしまう。友達を食べたおばけに対し、皆、
「ひどいよ、ぶんちゃんを かえせ」
「そうだ、ぶんちゃんは たべものじゃないよ」
と必死に応戦。するとつられたらたべちゃうぞおばけはこちらにぐわーっと近づき、げろ~んとさっきたべたはずの子どもを吐き出した。
「あのね、ほんとに たべるわけじゃないよ。みんなと つられたらたべちゃうぞあそびを したいんだよ」
なんて愉快なやつなんだ。それからも自分から大笑いして、それにつられて笑った女の子をばく~ん。そしてすぐさま吐き出す。
「あ~あ、つられちゃった」
と女の子ももう楽しそう。
「こんどは ふたり いっぺんに たべられたり、だれも たべられなかったり、なんかいも なんかいも たのしく あそびました。」
このころにはつられたらたべちゃうぞおばけは、もう子どもたちとほとんど同じくらいの大きさに縮んでいた。恐怖の対象ではなく、つられたらたべちゃうぞおばけは友だちになれたのだ。友だちだから、お別れする夕方は悲しい。
「『もっと あそびたかったな』と ちいさな こえでいうと とぼとぼ あるきだしました。」
寂しさのあまり泣き出してしまうつられたらたべちゃうぞおばけ。そんな彼にもお母さんの迎えがきました。
「つられたらたべちゃうぞおばけは おかあさんと てをつないで とおくの おうちに かえって いきました。」
文章も絵も愉快の極みのような本。作ろうとして作れるお話じゃないなあこれ。こういう1冊が不意にあるから絵本が好きです。
そういえば次回更新で100冊か。あっというまだったなあ。
「だけどね、あそびたくてしょうがない おばけは、こんどは きみの いえに くるかもしれないよ。」