140冊目『きょうは、おおかみ』
「あるひ、いもうとのバージニアはめがさめると、おおかみみたいにむしゃくしゃしていた。おおかみみたいにぐるるる、がるるる。おおかみみたいなことをする。」
思春期(?)で狼のように凶暴になってしまった妹と、朗らかで自由な姉のおはなし。これでラスト。
長くやってきた今年の趣味も今作で最後。最後の一冊はとびきり素敵な思春期の話。めちゃくちゃよかった。
ある日突然狼のようになってしまった妹のバージニア。機嫌をとろうとしても上手くいかない。全部がうるさくて、全部が気持ちわるい。
「うれしそうな きいろい ふく、やなかんじ」
「はみがき しゃかしゃか うるさすぎ」
「ぴーぴーぴーぴー、なくんじゃない!」
周りに当り、わめき散らして、迷惑な狼。でもどうしようもないのだ。狼はひどく憂鬱だった。
「いえがしずむ。ひっくりかえって。ひかりがきえる。こころがかげる。」
バージニアのわめき声は本の中でも手書きのフォントで描かれ、そのキンキン響く叫声が耳に届いてくるよう。黒と黄色がぐちゃぐちゃに書かれたイラストも、思春期の脳内を覗いているような感覚になる。そんな妹を心から心配する姉のバネッサ。
「わたしもとなりによこになる。もうふをかぶってじっとだまって。
ふかふかのまくらにふたりでしずむ。」
「なにかきっとあるはずよ。あかるいきもちになれること。」
バネッサはバージニアに提案してみるもなしのつぶて。ようやく口を開いたバージニアから、こんな言葉が聞けた。
「とんでいきたいのは、かんぺきなばしょ。クリームたっぷりのケーキがあって、きれいなおはながさいていて、いろんな木にのぼれて、ぜったいにかなしいきもちにならないところ」
完璧な場所なんてどこにもない、と思っていたバネッサだったが、この一言をきっかけに、バージニアのため、完璧な場所、夢のブルームスベリーを描いてあげることに決めた。
「にわをかこう。
いろんな木、ふしぎなキャンディーのはな、みどりのわかば、クリームたっぷりのケーキ。さやさやゆれるはっぱ。」
「このにわがブルームスベリー。バージニアのためのにわ。」
目を覚ましたバージニアははじめそれに気づかなかったが、だんだん目線があって二人はブルームスベリーで一緒に遊ぶ。
「おおかみはじゆうがすき、といったので、ふたりでひろいのはらをかいた。」
絵筆を置いたときには二人はいつもの姉妹に戻っていた。次の朝目覚めて、もう一度ブルームスベリーをみるとその不完全さに笑えてくる。
「おはなふにゃふにゃだねーーほんとだ。」
「木はぼうつきキャンディーみたいーーうん。」
「これじゃだめ?ーーううん、これでかんぺき。わたし、だいすき」
空想が人を救うことはこの一年、さまざまなおはなしを読み、自分で考えたうえで分かっていた。絵本はその象徴のようなものかもしれない。狼だったあの子は、寂しくて寂しくて吠えるばかりだったあの子は、その不完全な場所に自由をみつけた。
装丁も物語も素晴らしくて、まさに今年のしめくくりにぴったり。おすすめです。
「バージニアはにっこりわらって、わたしのてをとった。」