140冊目『きょうは、おおかみ』

 

きょうは、おおかみ

きょうは、おおかみ

  • 作者: キョウ・マクレア,イザベル・アーセノー,小島明子
  • 出版社/メーカー: きじとら出版
  • 発売日: 2015/03/13
  • メディア: 大型本
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「あるひ、いもうとのバージニアはめがさめると、おおかみみたいにむしゃくしゃしていた。おおかみみたいにぐるるる、がるるる。おおかみみたいなことをする。」

 

思春期(?)で狼のように凶暴になってしまった妹と、朗らかで自由な姉のおはなし。これでラスト。

 

長くやってきた今年の趣味も今作で最後。最後の一冊はとびきり素敵な思春期の話。めちゃくちゃよかった。

 

ある日突然狼のようになってしまった妹のバージニア。機嫌をとろうとしても上手くいかない。全部がうるさくて、全部が気持ちわるい。

「うれしそうな きいろい ふく、やなかんじ」

「はみがき しゃかしゃか うるさすぎ」

「ぴーぴーぴーぴー、なくんじゃない!」

周りに当り、わめき散らして、迷惑な狼。でもどうしようもないのだ。狼はひどく憂鬱だった。

「いえがしずむ。ひっくりかえって。ひかりがきえる。こころがかげる。」

 

バージニアのわめき声は本の中でも手書きのフォントで描かれ、そのキンキン響く叫声が耳に届いてくるよう。黒と黄色がぐちゃぐちゃに書かれたイラストも、思春期の脳内を覗いているような感覚になる。そんな妹を心から心配する姉のバネッサ。

「わたしもとなりによこになる。もうふをかぶってじっとだまって。

 ふかふかのまくらにふたりでしずむ。」

「なにかきっとあるはずよ。あかるいきもちになれること。」

バネッサはバージニアに提案してみるもなしのつぶて。ようやく口を開いたバージニアから、こんな言葉が聞けた。

「とんでいきたいのは、かんぺきなばしょ。クリームたっぷりのケーキがあって、きれいなおはながさいていて、いろんな木にのぼれて、ぜったいにかなしいきもちにならないところ」

 完璧な場所なんてどこにもない、と思っていたバネッサだったが、この一言をきっかけに、バージニアのため、完璧な場所、夢のブルームスベリーを描いてあげることに決めた。

「にわをかこう。

 いろんな木、ふしぎなキャンディーのはな、みどりのわかば、クリームたっぷりのケーキ。さやさやゆれるはっぱ。」

「このにわがブルームスベリー。バージニアのためのにわ。」

目を覚ましたバージニアははじめそれに気づかなかったが、だんだん目線があって二人はブルームスベリーで一緒に遊ぶ。

「おおかみはじゆうがすき、といったので、ふたりでひろいのはらをかいた。」

 

絵筆を置いたときには二人はいつもの姉妹に戻っていた。次の朝目覚めて、もう一度ブルームスベリーをみるとその不完全さに笑えてくる。

「おはなふにゃふにゃだねーーほんとだ。」

「木はぼうつきキャンディーみたいーーうん。」

「これじゃだめ?ーーううん、これでかんぺき。わたし、だいすき」

 

空想が人を救うことはこの一年、さまざまなおはなしを読み、自分で考えたうえで分かっていた。絵本はその象徴のようなものかもしれない。狼だったあの子は、寂しくて寂しくて吠えるばかりだったあの子は、その不完全な場所に自由をみつけた。

装丁も物語も素晴らしくて、まさに今年のしめくくりにぴったり。おすすめです。

 

バージニアはにっこりわらって、わたしのてをとった。」