139冊目『スワン―アンナ・パブロワのゆめ』

 

スワン―アンナ・パブロワのゆめ

スワン―アンナ・パブロワのゆめ

 

「このソリは、アンナをいったい どこへつれていってくれるのでしょう?」

 

実在のバレエダンサー、アンナ・パブロワの生涯をつづったおはなし。結局どの能力を‘才能’というのか。

 

MOEの作品紹介に載っていて気になり読んだ。クラシックバレエはまだ一度も観たことはないが、これは自分も見てきた‘芸事’の世界だ。

 

ロシアの西、冬の長い地域で生まれたアンナはある日、母親に連れられて劇場にいく。そこで出会ったバレエにすっかり心を奪われたアンナは、言いようもない衝動にかられた。

「足がもぞもぞとうごきはじめ、からだじゅうがうずうずしはじめたのです。」

まさに初期衝動。アンナはじっとしていられなくなって、親の手伝い中も遊んでいるときもくるくるくるくる、踊りともいえない揺らぎを自分に持つようになった。

バレエ学校にもいってみたアンナだったが、体の小ささと華奢さから門前払いをくらい、またひっそりと踊り続ける毎日。

ここで不思議なのが、読んだあとアンナパブロワで検索するとこの華奢な体を「恵まれたからだ」と書いている記述が多くあったが、この本では真逆のことが描かれている。

「その時代のバレエダンサーは、がっしりとした、たくましい体つきをしていました。」

「その弱弱しい背中と、甲高の足では、トゥシューズで立ち続けることはむずかしかったのです。」

時代によって‘才能’の捉えられ方は違うし、当時はこちらの解釈が正しかったように思える。アンナはその体でバレエダンサーとして大成し、のちにそれを‘才能’と呼ぶ人が現れたのではないか。そんな風に思った。

「アンナは、バレエをおどるために 生まれてきたのです。」

 

その後すっかりスターになったアンナだったが、脳裏にはいつも子ども時代の自分がいた。恵まれず、寒い思いをしながらも、内に眠る衝動と戦っている子ども。アンナは旅にでて、世界各国のいろんな立場の人にバレエを舞った。

「だれもがアンナのおどりをみて感動し、生きるための勇気をもらったのでした。」

色んな演目をやったアンナだったが、アンナの代名詞になるほどよくやったのが『ひんしの白鳥』という曲だった。その白い鳥のように、アンナの命も終わりを迎える。

「アンナの願いはただひとつ、いつまでもおどりつづけることでした。」

 

雪の白と白い鳥の白、儚さと美しさを併せ持ったそれらが踊るように彩られた本。とてもいい一冊だった。実在の偉人伝としても面白く、一度そんな夢のような光景をみてみたいなと思った。 

 

「どこかから、あたたかいはくしゅがきこえてくるわ。

 ああ……なんてしあわせなのかしら」