139冊目『スワン―アンナ・パブロワのゆめ』
- 作者: ローレルスナイダー,ジュリーモースタッド,Laurel Snyder,Julie Morstad,石津ちひろ
- 出版社/メーカー: BL出版
- 発売日: 2015/10
- メディア: 大型本
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「このソリは、アンナをいったい どこへつれていってくれるのでしょう?」
実在のバレエダンサー、アンナ・パブロワの生涯をつづったおはなし。結局どの能力を‘才能’というのか。
MOEの作品紹介に載っていて気になり読んだ。クラシックバレエはまだ一度も観たことはないが、これは自分も見てきた‘芸事’の世界だ。
ロシアの西、冬の長い地域で生まれたアンナはある日、母親に連れられて劇場にいく。そこで出会ったバレエにすっかり心を奪われたアンナは、言いようもない衝動にかられた。
「足がもぞもぞとうごきはじめ、からだじゅうがうずうずしはじめたのです。」
まさに初期衝動。アンナはじっとしていられなくなって、親の手伝い中も遊んでいるときもくるくるくるくる、踊りともいえない揺らぎを自分に持つようになった。
バレエ学校にもいってみたアンナだったが、体の小ささと華奢さから門前払いをくらい、またひっそりと踊り続ける毎日。
ここで不思議なのが、読んだあとアンナパブロワで検索するとこの華奢な体を「恵まれたからだ」と書いている記述が多くあったが、この本では真逆のことが描かれている。
「その時代のバレエダンサーは、がっしりとした、たくましい体つきをしていました。」
「その弱弱しい背中と、甲高の足では、トゥシューズで立ち続けることはむずかしかったのです。」
時代によって‘才能’の捉えられ方は違うし、当時はこちらの解釈が正しかったように思える。アンナはその体でバレエダンサーとして大成し、のちにそれを‘才能’と呼ぶ人が現れたのではないか。そんな風に思った。
「アンナは、バレエをおどるために 生まれてきたのです。」
その後すっかりスターになったアンナだったが、脳裏にはいつも子ども時代の自分がいた。恵まれず、寒い思いをしながらも、内に眠る衝動と戦っている子ども。アンナは旅にでて、世界各国のいろんな立場の人にバレエを舞った。
「だれもがアンナのおどりをみて感動し、生きるための勇気をもらったのでした。」
色んな演目をやったアンナだったが、アンナの代名詞になるほどよくやったのが『ひんしの白鳥』という曲だった。その白い鳥のように、アンナの命も終わりを迎える。
「アンナの願いはただひとつ、いつまでもおどりつづけることでした。」
雪の白と白い鳥の白、儚さと美しさを併せ持ったそれらが踊るように彩られた本。とてもいい一冊だった。実在の偉人伝としても面白く、一度そんな夢のような光景をみてみたいなと思った。
「どこかから、あたたかいはくしゅがきこえてくるわ。
ああ……なんてしあわせなのかしら」