129冊目『はくちょうのみずうみ』
「ひとりごとをいったとき、むこうのみずうみにはくちょうがまいおりました。」
呪いの力で白鳥の姿にされてしまったお姫様を救うおはなし。そういえば元曲を聴いたことがない。
チャイコフスキーのオペラ、白鳥の湖をいわさきちひろさんの絵で描いた本。いわさきさんはやはり人物の印象が強い。淡い色合いなのに表情はしっかりとしていて、絵から意思が伝わってくる。反面、白鳥の美しさは背景にとどまっているので、“自然”“人”という書き分けなのか。その背景もまるで人の形を縁取るようにあってこれまた素晴らしい。
「あるくにのおうじょでしたが、わるいまほうにかけられて、はくちょうにされました。わたしたちは、よるがくるとむすめのすがたにもどれますが、ひるまははくちょうになって、とんでいなければなりません。」
白くて美しい白鳥は、白くて美しいお姫様になって王子の前に現れた。その美しさに見惚れた王子はすぐに結婚を決意。しかも呪いを解く方法が王子と結婚すること、というなんだかよく分からないけれどとんとん拍子にことは進む。
結婚相手を見つけるために催された舞踏会に王子は参加し、そこで白鳥の娘をみつけてもう一度求婚するという。そして迎えた舞踏会。王子は現れた白鳥の娘そっくりの黒くてまがまがしい悪魔に騙され、その娘に求婚してしまう。
「ジークフリートがみたのは、なきながらとんでいくはくちょうでした。」
「わたしは、わかいむすめにもどって、あなたとしあわせになりたいとおもいました。
でも、もうおしまいです。」
物語はその後ハッピーエンドを迎えるのだけれど、この本の魅力はとにかくちひろさんの絵にある。お気に入りは悪魔が正体を現す舞踏会のページ。黒く美しい悪魔と王子、そのあいだを白鳥が、ページの余白の部分は全て白鳥の体だといわんばかりに伸びている。人の顔も美しいが、そのデザインセンス、見易さと、あまり詳しくない自分が見ても惚れ惚れする。
魔法のような一冊。ちひろ美術館、一度はいっておきたい。
「ふたりのあいが、わるいまほうをうちやぶったのでした。」