101冊目『はるにあえたよ』

 

はるにあえたよ (絵本のおもちゃばこ)

はるにあえたよ (絵本のおもちゃばこ)

 

「でもね、もうすぐ この もりにも はるが やってくるんだよ」

 

双子の小熊、マークとマータが2人そろって春を探しにいくおはなし。マークはクマだけどマータはなんだろう。玉?

 

森の冬は真っ黒。家のなかも暗ければ、熊の家族はみんな黒い影に覆われている。そんな熊の家族はみんな春を待っている。

「はるが くると、つめたい かぜが やんで あたたかくなる。じめんから くさの めが でて、はだかの きには みどりいろの はっぱが ひらいてくるのさ。

 そして、あかや きいろや いろいろないろの はなが さくんだよ。はなは、いい においがするから、はるの くうきは とても おいしいんだ」

 

前半はずっと黒で描かれているこの本で、“はる”のフォントだけが常にピンク色で書かれる。これは春の色で、後に現れる春を既に予感させている。

「マークと マータは はやく はるが みたくて たまらなくなりました。」

我慢できなくなった双子の熊は、まだ冬の残る山に春を探しにいく。お父さんとお母さんにもらったマフラーを巻いて。

「『いこう!』『いこう!』

 ふたりは げんきに かけだしました。」

 

探しているうちにマークとマータは地面から顔を出す蛙に出会う。

「ねえ、きみ はる?」

そう聞くも蛙は迷惑そうに、再び冬眠につく。かえるのところには、まだ春はきていないらしい。その後も樹にぶらさがって春を呼ぶも、返事はない。双子のヤマネを起こしてしまったことくらいで、二人は少しずつくたびれ始める。

「やっぱり、まだ はるは きてないや」

そういって諦めようとしたとき、マークは丘の向こうから、“色”が近づいてくることに気づく。

「マータ、みどりいろと、あかと きいろだ!あれ、きっと はっぱと おはなだよ」

「うえの ほうで ひらひら してるの、きっと ちょうちょだね!マーク」

二人は遂に春に出会う。春の正体はお菓子を持った人間の子ども。

(熊害事件ではない)

 

春の来た道にはたくさんの色が溢れていた。春はおばあちゃんからもらったお菓子をマークとマータにわけ、

「くまさんたち、こんど あったときは、あそびましょうね!」

といって手を振り、スキップしながら帰っていった。

あれが春だったんだ。あたたかくて、いい匂いで、大切なものをわけてくれる。

「ぼくたち はるに あえたね」

「もりで いちばん はじめに はるに あったの、ぜったい ぼくたちだよね」

「うん!やっぱり はるが くるって うれしいね!」

 

熊の子たちはまた春を待つ。春は“今度”も遊んでくれる。その期待感こそが春だ。そして最後のページを開くと、大きな大きな桜の樹が花を咲かせている。

全てが真っ黒だった冬からの、春が色を連れてくる感動がすばらしい。黒も悪い黒ではないから、冬も楽しそうに見える。季節が変わることの喜びに溢れたお話だ。

春の正体とその彩りは、絵本を読んでいてよく出会うモチーフだ。その原初的感動を忘れないように読んでいこう。

 

「マークと マータは はるの まねを して、スキップ しながら いえに かえっていきました。」