135冊目『となりのせきのますだくん』

 

となりのせきの ますだくん (えほんとなかよし)

となりのせきの ますだくん (えほんとなかよし)

 

「となりのせきのますだくんは つくえにせんをひいて

 ここからでたら ぶつぞって にらむの」 

 

女の子の隣の席に座る、怪獣のような(見た目の話ではない)男の子のますだくんのおはなし。表紙と中の絵で色合いが違うのは背景色にあわせてかな。

 

MOEのベストセラー絵本特集から気になって読んだ。同世代の人が「この絵本は知ってます」といっていたので有名な絵本なのだと思う。思う、というのは、自分にはあまりその記憶がないからだ。というわけで初見だったのだけれど、とてもいい絵本だった。どちらかというと漫画の手法に近い気もするが。

 

「あたし きょう がっこうへ いけない きがする。」

不安を抱えたまま朝を迎えた主人公の女の子。朝の準備をお母さんの手前するも、ずっとこんなことを考えている。

「あたまがいたいきがする。おなかがいたいきがする。ねつがあるようなきがする。」

「あたまがいたくなればいいのに。おなかがいたくなればいいのに。ねつがでればいいのに。」

不安の種は学校で隣の席に座るますだくん。ますだくんは乱暴で自分勝手で、女の子からみたらまるで怪獣のようにみえる。ということでこの本ではますだくんは怪獣として描かれている。

「けしごむのかすが はみだしたら いすをけるの。」

昨日ますだくんにされた嫌なことをこちらに報告してくる枠外の女の子がかわいい。

ますだくんは女の子が困っているとすかさずいじめてきたり馬鹿にして笑ったりする。自分のことは棚に上げて、女の子の弱点ばかり責める。典型的な“好きな子に優しくできない男の子”だと思う。これはあれだなあ。ひょっとすると理解できないやつかもしれない。自分の小学生時代を思い出してみてもこんな感じの奴はクラスにいて、まあ嫌いだったもんなあ。ますだくんはチャーミングだけれど本当のこいつらには好感が持てない気がする。

「どうしても、っていうならおしえてやってもいいぜ」

「いい。いじめるから。」

「へたくそのくせにえばんなよなー」

といいながらますだくんは女の子をぶつ。思い出しながら女の子も目を伏せる。そして昨日、決定的な事件があった。女の子が大事にしているピンクのえんぴつを、ますだくんが折ってしまったのだ。これにはつい反撃をしてしまう女の子。それにびっくりするますだくん。

「あわててかえったけど きょう がっこうへいったら あたし ぶたれるんだ。」

 

「やだな」

 

ますだくんとの決着はある謝罪によって訪れる。絵本のなかの女の子が、その決着を迎えてくれてよかった。自分にはこのお話は「あんなこともあったねえ」であたたかく思えるものではなく、まだ自分に残る苦い記憶がよみがえるものだったから。

作者の空白の描き方や枠線の使い方が絶妙で、誰が読んでも感情を震わせることができる。最後、怪獣だったますだくんは普通の男の子になって女の子の手を繋いでくれた。それだけで胸がすくものがある。読んでよかった。

 

追記。まあ別にどうでもいいのだけれど、作者紹介に書かれている「天性の絵本作家であり、今後が大いに期待される。」との一文がすごくきになった。なんだろう、編集とばちばちの喧嘩でもしたのか、そうでないとこんな嫌がらせみたいな文章書かれないと思うんだが。そう思う自分が卑屈なだけかもしれない。

 

「かえりにたしざんおしえてやろうかー」「いい。いじめるから。」