124冊目『カプチーヌ』

 

カプチーヌ (魔女のえほんシリーズ)

カプチーヌ (魔女のえほんシリーズ)

 

「でも、すべてはある寒い10月の夜にはじまります。」

 

魔女の呪いで小さくなってしまった女の子が動物とともに魔女にあいにいくおはなし。

 

表紙の何か大きなものに襲われている感じからどんな冒険譚なのかしらと気になって読んだ。冒険は短かったけれど、空を飛ぶ様は愉快だ。

 

絵の温かみある表現が細部まで施されていて、ずっとみていて飽きない。小さくなってしまった女の子カプチーヌの目線だから、出てくる小動物や小物などは全て大きく見える。特に中盤にでてくるコウノトリのグロリアの姿は圧巻。大空を駆けめぐる姿も、そのときのカプチーヌの感情表現もすばらしい。

「上空からながめると、世界はなんてきれいなんでしょう。

 家々を遠くに見下ろしながら、

 カプチーヌは自分が大きくなったみたいな気持ちを味わいました。」

 

お父さんの大きな過ちとは、ある日泊まりにきた魔女から、真珠を一つ奪ってしまったことだった。その真珠を口に含んでしまったカプチーヌは小さくなり、更には同サイズの動物たちと話せるようになった。

「すべての動物ーーなめくじとプードルだけはべつですがーーと、話せるということです。魔法というのは、ときに科学では説明のつかないことをするものです。」

なんでなめくじとプードルは駄目なのか。ということを考えていて、この絵本が誰に贈られたものなのかというところに思い当たった。作者はタンギー・グレバンとカンタン・グレバンという名前からしておそらく夫婦、そして一番最初の“誰に” のところにはこう書かれている。

「わたしたちの小さなラリーに」

おそらく、このお話は娘であるラリーのために描かれたもので、ラリーはなめくじとプードルは苦手(かもしくは大好き)なのではないだろうか。自分の娘が小さくなって冒険するおはなしを出版したのだとしたら相当親馬鹿だけど、面白くて素敵だからいいと思う。

 

カプチーヌは長い旅の末魔女の家に辿り着き、一度は捕らえられそうになるも仲間を守り魔女の説得に成功した。すべてを正直にはなすと魔女は、

「お父さんもいっしょにくるべきだったわね。でも、こんなに遠くまできたあなたはゆうかんでした。いいでしょう、真珠の呪いをといてあげます。」

とカプチーヌの体を元の大きさに戻した。これにてカプチーヌの旅は終わり。

「いそぎましょう、みんな。これから、ながい空の旅があるんだもの。」

大きくなってしまったカプチーヌを運ぶのはいくらコウノトリでも無理じゃないかなあ。そのほか、

「ただし、お父さんにここへきてあやまってもらうのを忘れないで。さもないと、お父さんを青いヒキガエルに変えてしまいますからね」

とお父さんへの恨みを忘れない魔女の執念深さもいい。この世界では基本的に魔女は親しみをもたれていて、絵もまるで同年代の娘のように描かれているものだから、そんな魔女から真珠を奪ったお父さんは土に顔をうずめて謝るに違いない。そんなお話もちょっと読んでみたい気もする。

 

自分の娘に宛てたお話、として解釈するとこんなに喜ばしい絵本もそうない。読んでてなんだかにやにやしてしまった。というかこのあとの続編があるのか。うわあ絶対に読もう。楽しみ。

 

「もしかすると、もしかするとですが、カプチーヌも、みんなに愛されそんけいされる魔女に、なるかもしれません。」