106冊目『かないくん』

 

かないくん (ほぼにちの絵本)

かないくん (ほぼにちの絵本)

 

「しぬって、ただここにいなくなるだけのこと?」

 

絵本作家の祖父がみた、かないくんという友だちの死とその後始まるもののおはなし。

 

話題作にしてヒット作。図書館の貸し出しで3ヶ月以上待ってようやく読めた。

「かないくんは しんゆうじゃない、ふつうのともだち。」

同級生だったかないくんが、ある日学校にこなくなった。そしてこないまま、かないくんは亡くなった。

「びっくりした、きょうせんせいが いつもとちがうこえでいった。

 『かないくんがなくなりました』」

 

 お葬式にいき、新学期が始まると、隣の席がまつだくんになった。

「かないくんがつくった きょうりゅうが まだある。

 かないくんが かいたえも、まだはりだされてる。

 でももう かないくんは、しゃしんのなかに しかいない。」

「みちことあきこも、もうかないくんをわすれているみたい。」

 

時は流れて、かないくんの死をみつめていた男の子はおじいさんになり、絵本作家になっていた。これはかないくんの作者、谷川先生本人なのかもしれない。絵本作家の孫である女の子は、おじいさんに尋ねる。

「金井君ってほんとにいたの?」

「ほんとにいて、ほんとに死んだんだ、四年生のとき。六十年以上経って、突然思い出した。それでこの絵本を描きだしたんだがね。」

 

おじいちゃんは、自分自身で自分の死期を悟っていた。ただ、絵本に描けないことを、声に出さずともその場で考える。

「死を重々しく考えたくない、かといって軽々しく考えたたくもない。」

「この絵本をどう終えればいいのかわからない。」

おじいちゃんの周りを囲むように、こども、兎、たくさんの命が通りすぎる。かないくんがいなくなっても、かないくんがいない世界が始まっていくだけ。

「そんなにながいあいだ生きていても、まだ分からないこと、知らないことがあるなんて素敵」

こどもの“私”がいうと、おじいちゃんは「ほんとだ」といって笑った。

 

「何が始まったのかは分からない。でも終わったんではなく、始まったんだと思った。」

女の子はこれから、おじいちゃんのいない世界を生きる。おじいちゃんにとってのかないくんのように、死ぬまでずっと忘れないかもしれない。忘れてしまうかもしれない。しかし覚えていてもいなくても、死はずっとそばにある。かないくんがおじいちゃんに教えてくれたこと。女の子はそんなことを考えながら、まっしろい雪の世界をただ滑っていく。

 

死がもたらす非日常、そしてそこから連なる日常。おじいちゃんが金井君を通してみた景色を、女の子は少しだけ覗いた。同じように、この本を読む人もその景色を分けられているのだろう。日々は続いていく。そして、始まっていく。

心に一冊抱えていたい本。松本大洋の、灰色の絵が“死”を、そして相反する“生”を際立たせている。

 

「ゲレンデを滑り降りながら 私は泣いているのか、笑っているのか 自分でも分からなかった。」