94冊目『おばあさんになった女の子は』
「おはなしはそこで終わりのようでした。はるかはページをめくってみました。」
本の中にいたおばあさんになった女の子との会話の末、女の子を一番よかった頃に戻してあげるおはなし。LE TEMPS。
過去を振り返りおばあさんになったことを一つも悔やんでいないようにみえたおばあさんの1ページ目。しかし何度もページを開いていると中から「あきあきしたわ」との声が聞こえる。
「わたしよ。おばあさんになった女の子よ」
ページから呼びかけてきて私を切り抜いてくれないかしら、というおばあさんの顔が怖すぎて夢に出てくるレベル。夢ではなかったようなので、はるか(主人公)はおばあさんを外に出してあげる。するとおばあさんはページをめくり、おばあさんにとっての過去、前のページへと飛び込んでいってしまう。
おばあさんだった女の子は1ページでは飽き足らず、何ページも戻って、恋をしていたころに戻る。しかし恋は恋でも、恋しい人をなくした直後の頃。
「手紙にはまだつづきがあるようでしたが、涙ににじんで読むことができませんでした。」
涙にぬれながら、おばあさんだった女の子は、はるかに話しかける。
「あのひとがわたしにあげたかった贈り物は、愛だったの。旅になんか出なくたってわたしはちゃんと分かっていて、旅に出なければあのひとは分からなかった。わたし、いかなくちゃ」
時を戻り続けるおばあさんだった女の子は、記憶を戻り続ける。体は確かに若くなっているのかもしれないが、“分かっていた”ということが、彼女はもうおばあちゃんだということの証拠だと思う。
おばあさんだった女の子は戻り続けて、遂に女の子と同じ年の頃になった。
「本のなかとそとで、ふたりの女の子の目があいました。
『わたしたちって』と、ふたりは同時にいいました。でも、その続きをふたりともうまく言葉にすることができません。
ふたりはじっと見つめあいます。やがて、女の子のほおに、えみがうかびました。はるかもつられてほほえみかえします。」
過ぎ去ったときを自由自在に飛べるようになった女の子は、もうおばあさんであったことも忘れてしまい、恋人の胸で「ずっとここにいるの」とささやいた。はるかはそんな女の子をこの“時”に閉じ込めておくように、本を閉じる。
本のタイトルはLE TEMPS。“時”という意味であることをはるかが知るのは、きっとはるかがおばあさんになった頃なのだろう。
時を振り返り戻ることができるのがおばあさん、そのときを知らず知らずに閉じ込めてしまうのが女の子。二人がシンクロしあう瞬間は、お互いの時間もシンクロしていたのだと思う。怖く、美しいお話。あの娘、はやくおばあさんになればいいのに。
「娘になったおばあさんが、いつまでもいつまでも、恋人といっしょにいられるように。」