68冊目『猫の建築家』
「いつも“造形”というものを考えている。そして、つねに“共生”というものを意識している。」
猫と無機物が交差する町で、“美”とはなんなのかを探すおはなし。
言葉としていくつも面白いところがある本作なのだけれど、自分は「まるで終わってしまったような世界を“自然”と思い生きる猫たち」というビジュアルがとても好みでぐんぐん読み進めることが出来た。
この世界においての“自然”とは、既に人間か神か、他者によってつくられた建築物のことを指す。そしてその自然と共に生きる猫たち。文中の言葉を借りれば、
「我々は『猫』であり、我々以外は自然だ。たとえば、『夜』は『猫』ではない。」
となる。だから建築物に内側と外側があることも“自然”だし、猫にはなぜ内側と外側がないのだろうという発想もうなずける。
まあなんだろう、自分なりに読み解いてはみたものの、正直難しいところもあった。本質としての“美”が、自分に似ている奴をみつけたというところで落ち着いているのに関しては、それまでの「理由もなく存在するものが美」という話からはちょっとずれたところに行った気がするし、建築物=自然と、雪=美を繋げて解釈するのも、考え方によるなあと思ったり。
しかし作品の魅力はそれを考える過程にあり、美もそこに含まれているものなのかもしれない。
「(美は)あるかもしれない。一瞬でも、あるかもしれない。」
元々あるもの、猫の建築家にとっての聳え立つビルという自然を、ずっと考え続けるということがつまり美の瞬間なのでは。分からないものを、無駄なものをずっと追い続けていることに徒労を感じ始めた自分には、この本がそう語りかけてくるような感じがした。
「それは確かなことに思える。少しだけでも、確かなものがあると、嬉しい。」
年間100冊目標で始めた絵本の趣味だけれど、70冊近くになってきて、これからは1冊1冊にもう少し時間をかけてもいいかなあと思い始めた。それこそ、どんな本にも参考図書があるので、そこに時間をかけてみてもいいかもしれない。せめて何かの糧になるようにしないと、美も何もないな。
「今日も、彼は『美』の理由を考える。我々建築家は、何を造るべきか。」