67冊目『幸福な質問』
「もしも 明日の朝 おきたら わたしが、真っ黒なクマに なってたら あなた、どうする?」
カップルが質問をし合い、お互いの愛を確かめていくおはなし。イチャイチャしやがって。
以前読んだ『あかちゃんがわらうから』が余りにも素晴らしかったので、詩集『だんだんおかあさんになっていく』とセットで読んだ。
「そりゃあびっくりするな。『ぼくを食べないで』って言うよ。それから 朝ごはん 何が食べたいか きみにきいて、用意してあげる」
上の質問への回答。こんなふうにして彼女が問いかける質問に、すべて愛のある返答を返す男。というかオス(このカップルは犬のカップル)。
彼女がゾウムシになっても、おしつぶさないようにキスする練習しなくちゃとかいうし、彼女が木になっても、木登りは得意だから君にいっぱい服をかけてあげるなんていう犬。カッコいいなあと思って読んでいると急に犬の性質むきだしで、彼女がご飯を食べている皿を「なめてもいい?」なんて聞く犬。犬可愛いなあ。
「じゃあ猫になったら?」と質問する彼女に、
「舌のやわらかい猫?ざらざらしてなきゃ いいんだけど」と返すエロ犬。犬可愛い。そして日が暮れ夜になり、2人は寝床につくも、まだ質問は終わらない。
「わたしのこと好き?」「好きだよ」少しだけめんどくさがる犬。こういうところも描いているのが、ロマンチックに浸りすぎていなくて好感触だなあ。
そして日付の変わる頃、彼女が最後にこんな質問をする。
「じゃあね 明日 一日で 世界が なくなって しまうんだとしたら?」
少しの間も置かずに、犬はこう返す。
「眺めのいい丘に ベッドをもっていって ころころころがって 君と 一日中 キスをしていることにする!」
カップルの質問は愛の交換で、そんな愛を確かめ合った2人には世界の終わりだって怖くない。当たり前のことを当たり前に描けること。作者は、そんな実は難しいことを、絵と言葉で際限なく表現できる方だと思った。改めて好きになる。
好きになりついでに詩集も読んでみたら、これまた素晴らしい内容だった。
『ひかりのあるところ』は『あかちゃんがわらうから』にも通ずるところのある、この世の光の詩。
「ああ ひとが
生まれて一番はじめに知ることは
この世界が
ひかりのある場所だということだったのか
それなら わたしは
おまじないのように
くりかえさなくてはーー」
『おなら』では、
「もしかしたら
ひとが 泣いたりこわがったりすることの
ほとんどは
ただ“しらない”というだけのことなのかな」
とあかちゃんの目から新しい発見を得る。そして表題作の『だんだんおかあさんになっていく』に繋がる。
本当に美しい詩集だった。呼称が人を変化させていくこと、子どもの持つ時間の尊さ、それらが全て言葉と何枚かの絵に詰まっている。ぜひ、誰かに読ませたいし、自分以上の言葉を持つ人から感想を聞きたい。ので、今度唐突に人にあげてみたいと思う。覚悟しておいてくださいね。
一番好きかもしれない詩を、メモがてらここに書いておく。
『しゃべる』
ある日
とうていしゃべるなんて思えなかった
ちいさないきものが
からだじゅうに満ちた水を
撒き散らすかのように
しゃべる
しゃべる
しゃべりはじめた
あふれて
あふれてしょうがない
と いったふうに
まるで楽器!
まるで小鳥のうた!
朝から晩まで
からだから出る音で
「声」というユビサキで
だれかにさわろうとする
ああ ひとは
だれかにさわりたいんだ
まぎれもなく
だれかにさわりたくて
さわってほしくて
声を音を
ことばを出しはじめたんだ