63冊目『かえるくんはかえるくん』

 

かえるくんはかえるくん

かえるくんはかえるくん

 

「わたしは 空を とべるわ。かえるくんには できないでしょ?」

 

自分大好きかえるくんが、自分を見失って、そして取り戻すおはなし。

かえるくんには出来ないことが多い。空を飛べないし美味しいケーキを焼けないし本も読めない。空を飛べるあひるさんに会っては自分に失望し、ケーキを焼けるこぶたさんに会ってはそんな自分にがっかり。でもそうして見つけていく自分の色。

かえるくんのおとぼけた感じの表情が素敵。水泳パンツをはいているのも謎だし、なんなら緑色でなければかえると言われてもちょっと分からないくらいのかえるくん。冒頭では水面に写る自分を見ながら、

「かっこうは いいし、およげるし、だれよりも たかく ジャンプできる。それに、ぜんしんみどりいろだ。ぼく、みどりって だいすきさ。ほんと、ぼく かえるで よかったよ。せかいいちの しあわせものだ。」

とのたまうかえるくんも、茶々を入れてきたあひるさんによって自分を見失ってしまう。ちょっとタイムリーだな、と思ったのが、この記事を書いてる日曜日の朝、ニチアサを観ていたら戦隊、仮面ライダーとスーパーコンプレックスタイムだったこと。誰かと比べて、自分は何でこんなことも出来ないんだ、あいつはさらっとやってのけるのに。そうして募らせたコンプレックスが物語を動かしていた。

かえるくんもあの人のようになりたい、という思いから、翼をつけてみたり文字を学んでみたりするも失敗。終いには泣き出してしまう。

 

「ぼく ケーキも やけないし、空も とべない。ものを つくるのも とくいじゃない。みんな、ぼくより すごいんだ。ぼくには なにも できない。ぼくは なんのとりえもない ただの みどりいろの かえるなんだ。」

あんなに素敵に見えたはずの緑色が“ただの”になってしまう。そういうときの在り方ってある。自分は、今だって何か特別な人になった気はしないけれど、例えば好きなものを語るとき、自分語りが過ぎて「こんな特別なものに出会えている私は、ひょっとして特別な人間なのではないか」というヴェルダースオリジナル的発想に言ってしまうことが多々ある。直したいなあと思いつつ、そこくらいは特別であってもいいんじゃないか、という気もして。いや分からないけども。この件はちょっと保留で。

 

かえるくんには答えをだしてくれた友だちの野うさぎ君がいた。

「でもね かえるくん。ぼくも 空は とべないよ。ケーキも やけないし、ものを つくるのだって とくいじゃない。きみのように じょうずに およいだり、たかく ジャンプもできないよ。それはね、ぼくがのうさぎだからさ。そしてきみは かえる。みんな、そのままの きみが だいすきだよ。」

 

かえるくんはその後、特に逡巡もなくぱっと明るく前を向きます。とても好きなラスト。かえるくんからはじめっとした感じがまるでしないので、やっぱりかえるじゃないんじゃないか説。面白かったので他シリーズも読もう。

 

「ぼく、ぼくで よかった。かえるで よかった」