59冊目『キスなんてだいきらい』

 

キスなんてだいきらい (世界の傑作絵本B)

キスなんてだいきらい (世界の傑作絵本B)

 

「めざましどけいは けさは ならない。

 トキって どんな かたちを しているのか

 しらべてみたく なったから。」

 

キスを嫌うパイパー・ポーと、そのお母さんのおはなし。耳は縫いつけられる。

 

五味太郎さんの『絵本を読んでみる』を読んで気になったので読んだ。モノクロの絵と割ととんでもないストーリーが素晴らしい。猫は可愛くない。

 

何度も読み返したくなるのが、普段寡黙なお父さんの長台詞。ちょっと全部書いてみる。

(なぜ自分を甘やかすのかと母親に怒るポーに)

「そうせずに いられないのさ。おれの おふくろも おれの おやじの おふくろも そんなふうだった。

 まあ、いいこに なっててやれよ。それからね、トイレに 本棚を つくって ほしけりゃ ちゃんと おれに たのむんだな。本を びしょびしょにする ことはない。

 おれも おまえぐらいの としごろには おまえそっくりだった。はなんか みがかなかったぜ。はっはっは。ブラシで せんめんだいを こすって みんなを だましてた。

 ただし、はいしゃだけは だませなかったね。おれの はを 見れば 分かるだろう。

 さあ、ついたぜ。キスは いらんよ。元気で やってこい。」

 

かっこいい。この言葉にパイパー・ポーは、「おとなって だまされないもんだな。それに フロントガラスを わって ほんとに わるかったな。」とこのお話が始まって初めての反省をする。キス、というのが愛情の当たり前の行為として行われる国で、それを嫌がるポーに「キスはいらんよ。元気でやってこい。」といえる父親。父として、大人として、とても理想的に思う。その後ポーはちょっと元気にやりすぎて、耳が落ちかけたり、葉巻を吸ったり、癇癪弾を友だちに売りつけたりさんざんなことをしてのけるのだけれど。

あと一言だとタクシーの運転手もいいなあ。怪我を心配する母親を恫喝するポーに一言、「おふくろさんに あんなこと いうもんじゃない。はずかしいと おもえよ。」と高倉健ばりに渋さを見せる。

 

母親は“そういうもの”で、大人がきちんと思慮深く描かれている、面白いよりもカッコいい絵本だと思う。中盤母親の対比としてでてくる看護婦のシーンなんかはちゃんと面白いし、ラスト、少しだけ母親に歩み寄るポーの姿も涙腺をくすぐる。けれどもキスは嫌いのまま。愛情の表現方法はどんなものでもいい。うまれてきて、誰かを思っている段階であなたは人の(猫の)子だ。 

 

「ぼうやに キスなんか しない。

 かあさんに キスなんか しない。」