48冊目『アライバル』

 

アライバル

アライバル

 

「」

 

言葉も通じない不思議な国に出稼ぎにきた男と、その家族のおはなし。

 

海外の作家の、しかも文字なしかーと少し怖気づきながら読んだけれど、これがべらぼうに面白かった。大ヒットした本らしいのであらすじ等は別で読んでいただくとして、自分がすごいと思った点(たぶん読んだ人みんなが同じことを思う)。↓

 

①読書体験としてのすごさ

言葉の通じない不思議な国へきた男は(元いた国にもムカデの形をした闇が覆っている(不況?))、はじめ寝るところを探すのにも悪戦苦闘する。男は自分の手帳に絵を描き、そこからジェスチャーやハンドサインで人とコミュニケーションをとっていくのだけれど、そのおかげで本には一つの言語も存在しないのにこちらにもその意図が伝わってくる。

話している言葉も、その行く末も分からないのは、読者も男もまるで同じなのだ。だからその男と同様に、読み取っていくしかなく、それは読書や人とわかりあうことの最大の面白みであり、そこを追体験できるのが本作だと思う。その仕掛けからして素晴らしいのに、先ほどちょろっと書いた「ムカデの形をした闇」のように、不安や怪しさが漂う何かが本の全てを埋め尽くしている。はじめはそれが恐ろしくてならなかったが、後にこれらが光や希望の表現にも繋がってくるのはまさに、“不可思議”が意味を持って存在している傑作ファンタジーのようでもある。

 

②小物や街の風景のすごさ

 

男が出稼ぎで訪れる国は、入国するために気球のようなもので移動し、国民一人ずつが化け物の赤ちゃんのような生き物と暮らし、ラッパ形の火炎放射器で料理をする、もう“不思議”という言葉でしか表せない変わった国。でもその国ではそれが日常であり、ひとつずつ驚いたり困ったりするのは男と、この本を読む読者だけ。

そういったこの国の日常の部分が、全てにおいて新鮮で面白い。部屋の形やシャワーも違うこの国の形状を見ているだけで飽きがこない。なにより素晴らしいのは、最後まで読むと確かにそれは“日常”になるのだ。そしてそんな日常に家族を招き入れるラスト。これは細部にまでこだわった設計をしないと出来ないし、なによりも人が何処かに“なじむ”ということの全てだと思った。

 

③全ての“訪問者”のエピソードがすごい

 

そんな不思議な国に住む人々も全員が全員元からそこにいたわけではない。男と同じようにいつからか国に“なじみ”、そこで生活するようになったのだ。男の物語の合間に、何度か他の人々がどうしてこの国に行き着いたかのエピソードが語られる。全部いいのだけれど、最後に語られる戦争で片足を失ったおじいさんの話が、文字のないこの本で一番の言葉を持っていた。それは悲壮感であったり、今はゆっくりとスポーツも出来ることへの安心感であったりもする。

他にも、掃除機を持った巨人に母国を滅ぼされた親子の話なんかもめちゃくちゃよかった。あの絶望の描き方はパニック映画にも引用されてほしい。

 

以上、なんとなく書いてみただけでもこれだけのすごい点がある作品で、しかも文字がない分読んだあとに言葉にしたくなる。すごかった。高いけれど家に置いておきたいなあ。そりゃあ売れるさ。

 

表紙にもいる化け物の赤ちゃんが可愛いのでそのぬいぐるみが欲しいです。