46冊目『百合若大臣』

 

百合若大臣 (日本の物語絵本)

百合若大臣 (日本の物語絵本)

 

「うまれたのが 夏なかばのころだったので、花にもぬきんでてそだつようにと、百合若となづけた。」

 

元寇の頃の英雄百合若の、波乱に満ちた英雄譚のおはなし。頭痛が痛い。

 

語感がなんとなくユリ熊嵐っぽいなーという理由だけで読んだ。ので、この物語が御伽草子にも収録されているとてもポピュラーな昔話だということに読み終わってから気づいた。

最後の解説にも書かれているけれど、日本における「ギリシャ神話のオデュッセイア物語にも似たスケールの大きな英雄伝説」 のような話だ。元寇を打ち倒すまでは順風満帆だった百合若は、その帰りに家臣に裏切られて無人島に置き去りにされてしまう。そこから三年のサバイバル生活を繰り広げて、なんとか都に戻り復讐を果たすまでの物語。

さんざ伝えられている昔話の特徴として、悪役が気持ちのいいくらい悪い奴というのがある。今作の悪役、別府兄弟も、兄弟そろって根性がひん曲がっているのがとても気持ちが良い。兄貴のほうは百合若がいないうちに百合若の奥方である北の方をなんとか抱こうと手紙をだし、「もしつれないへんじをよこせば、ひとおもいに しまつすればよいことだ」と言ってのける下種っぷり。手紙を読んだ北の方が、

「あまりのけがらわしさに、ひきさいて なげすてた。」

となるほどその恋文もまあ気持ち悪かったんだろう。現代日本でいうと、LINEのIDをしつこく聞きトークではwやアニメスタンプを連投する、今あなたが気持ち悪いなあと思っている人のように。そんな下種糞兄弟(弟のほうはそれほど悪事が描かれない)は最後に戻ってきた百合若に、兄は「口の中に手をつっこみ、舌をつかんでひきぬいた」とし、弟には「壱岐の島へ島流し」とされた。弟にはそれほどキレていない百合若。

 

中盤の鷹のエピソードもじんわり良い。日本の昔話や童話を絵本でみるのも面白いなあ。知識が必要な部分もそれとなく注釈が入れられているので読みやすい。勉強だと堅苦しくなるので、こういった物語から興味を持つのは楽しいと思った。ユリ若、承認!

 

「とぶ鳥の あとばかりをば たのめきみ うわの空なる 国のたよりを」