37冊目『トムとことり』

 

トムとことり (主婦の友はじめてブック―おはなしシリーズ)

トムとことり (主婦の友はじめてブック―おはなしシリーズ)

 

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 街の市場で小鳥と出会ったトムが、自らの手で小鳥を空に放つおはなし。

言葉のない絵だけの絵本。けれども話の語り口はとても雄弁で、また優しい。

父に連れられた市場で小鳥と出会ったトムは、毎日小鳥のことばかり見ている。見ていると、トムはだんだん分かってきてしまう。小鳥があの鳥屋に連れてこられるまでは、大きな空を自由に飛んでいたことを。仲間とともに生きていたところを、この鳥かごに捕らえられてしまったことを。哀しくなってしまったトムはあんなに大切にしていた小鳥を自ら空に放ち、そこから小鳥は帰ってこなくなってしまった。小鳥の残してくれた羽をみながら、夜、小鳥のことを考えていると、夢に小鳥が現れる。大きな羽をたなびかせながら、本当に大きい存在になった小鳥はトムを朝日が昇る空へ飛んで連れて行ってくれるのだ。というお話。言葉もないのにここまでのストーリーが語られる。子ども、トムにとっての自由と悲しみのお話。

 

書いているうちに失恋ソングみたいなお話だなと思った。見慣れない服を着た、君が今出て行った。一つ残らず君を悲しませないものを、君の世界の全てにすればいい。そして僕は途方にくれる。

子供は途方にくれず朝を見つめていて欲しい。願いも悲しみも詰まったあたたかい別れの本。