36冊目『アブアアとアブブブ』
「アブアアとアブブブはアブアアアブブブとはねのおとをたてながらちょっとくうちゅうでとまってる」
いつも大きな紙をぶら下げて飛ぶ虻の兄弟アブアアとアブブブのおはなし。
このあいだ読んだ『葉っぱのフレディ』で「生命は」という詩を思い出し、その虻が出てくる一説をやけに気に入ったので虻が主人公の絵本はないかと探したらあった(生き物はだいたいある)。
色使いが刺激的でびっくりする。森はピンクや赤黄色、なぜか持っている大きな紙の色もページをめくるごとに変わる。それを眺めているだけで楽しいのに、お話はもっとすごい。なぜ大きな紙を持っているのか。それは、「だれかさんの かおのまえに かみを パラリと さげてしまうのが とても たのしみ」だからだ。なんて悪趣味な兄弟なんだ。しかも、
「アブアアと アブブブは これをやると きもちが スーッとする」
という。お前ら兄弟は楽しいかもしれないが、突然顔を隠されて、ご開帳みたいに暴かれる身にもなってみろ。読者が「この紙をめくったらいったい誰が……なーんだライオンか」みたいになったらどうするんだ。なーんだじゃないから逃げなさい。
でも、なにも行動原理が全て生きるためだけの生き物なんて、特に人間のなかには一人もいないのだ。時に仲間と馬鹿をやって、気持ちをスーッとさせることもあるだろう。被害者と加害者がいれば、一生どちらかの立場にしか属さない人などいないもので、まさに「誰かにとっての虻だったかもしれない」である。
色味の新鮮さ、説教くさくないのにシュールな内容とかなりお気に入りの1冊。「忘れていたけれどアブアアのほうがおとうとさんでアブブブのほうがおにいさん」である。
「きょうも おおきな かみを ぶらさげて とんでいく めざすは ゾウか クジラか それとも おすもうさん」